溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜


「俺は藤堂博人(とうどうひろひと)。キミは?」
「鶴岡美華です」


流れでうっかり名乗ったうえ、博人が差し出した名刺まですんなりと受け取ってしまった。動揺しているせいもあるだろう。

ふと名刺に目を落とし、美華はあまりの衝撃で目眩を感じた。
〝『株式会社ビルドポート』代表取締役社長 藤堂博人〟と書かれていたのだ。

会社勤めをしていない美華でも知っている企業だ。確か、建築設計の会社だったはず。
テレビCMでもおなじみ、有名な会社の社長だとは。

(そんなすごい人のお見合い相手の身代わりなんて無理だよ)

「あの、ごめんなさい。やっぱり私はこれで……!」


ドアを開けようとするが、当然ながら開くはずもない。カタカタとレバーを引っ張ってみるが、ビクともしなかった。


「まだ話は終わってないよ」
「ですが、社長さんなんて! あなたのような立派な方に私は不釣り合いですから!」


つい興奮して言い返す。