溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜


途切れ途切れに返しながら、滲んだ涙をテーブルの紙ナフキンで拭う。水で喉を潤し、ようやくひと息ついた。


「お互いに人違いをしていたようだな」
「そうみたいですね」


彼もまた、顔を知らない女性との待ち合わせをしていたようだ。
お見合い〝もどき〟の相手を取り違えるなんて、美華の滑稽さといったらない。

そうとわかれば長居は無用。待っているという本物の相手のもとへ急がねばならない。
取り出した財布から二千円を抜いてテーブルに置く。


「あの、では私はこれで。すみませんでした」


ぺこりと頭を下げ、そそくさと立ち上がった。彼の脇を通り、急いでテーブルを離れようとしたそのとき。


「ちょっと待って」


すれ違いざまに手をとられ、彼に引き留められた。

(お金が足りなかった? コーヒーと和菓子なら、それで足りると思うんだけど、高級ホテルだとそうはいかないのかな)