溺愛婚姻譚〜交際ゼロ日ですが、一途な御曹司と結婚します〜


強制的に通話を切り、バッグに戻す。とんでもない間違いを犯した可能性を前にして、鼓動が速まっていく。


「あなたは竹下さんでは……?」


美華の問いかけに彼が首を横に振る。


「……父の部下の方、ですよね?」


それにも大きな動作で否定した。

(嘘でしょう!? それじゃ私、別人と一緒にいたの!?)

なにかを言おうにも言葉が出てこない。呼吸まで止めていたのか喉の奥のほうで空気と一緒に詰まり、苦しくなって「ゲホゲホ」とむせ込んだ。


「大丈夫か?」


咳をしている私がおかしいのか、それともふたりの置かれた状況がおかしいのか。彼は楽しげに顔を綻ばせている。


「……すみ、ませ……ん」