「私、着物なんて全然」
「全然?」
眉間に軽く皺を寄せ彼が訝る。
(え? どうしてそんな顔するの?)
目をパチパチとさせる。
「……あの、あなたは父の勤め先の部下の方なんですよね?」
彼も、美華と同様に激しくまばたきを繰り返した。
お互いに見つめ合い、同じほうに首をかしげる。
(どういうこと……?)
飲み込めない事態を前にして、美華のバッグの中でスマートフォンが着信を知らせて鳴り始めた。
取り出して画面を見ると、父の正隆からの電話だった。
「ちょっと失礼します」
ひと言断り、スマートフォンを耳にあてる。
向かいでは彼もまたスマートフォンに着信が入ったようで、胸もとのポケットから取り出していた。



