「大丈夫か?」
自然な仕草でハンカチを差し出した。美華のそれは、椅子に置き去りにしたバッグの中だ。
「すみません、お借りします」
遠慮なく受け取って濡れた個所を拭っていると、先ほどのスタッフが三十歳そこそこの美しい女性を引き連れて戻った。若そうだが、この店の責任者だという。
「お客様、大変申し訳ございません」
丁寧に頭を下げた彼女を急いで止める。
「そのままではご不快でしょうから、お着替えになられませんか? 着物というわけにはまいりませんが、すぐに代わりのものを手配いたします」
「いえいえ! 本当にそこまでしていただかなくても!」
たかだかお茶で濡れたくらい、なんのことはない。
「そういうわけにはまいりません。明美ちゃん、すぐにお願いね」



