どうぞという仕草で彼が手のひらを上に向ける。美華の様子をおもしろそうに見ている目だった。
それに構わずショーケースに向かって草履を鳴らす。
ところが、そこまであと僅かというところでフロアを行き来するスタッフとぶつかってしまった。
「申し訳ありません!」
先ほど美華たちを案内してくれた小柄な女性だった。
「いえ、こちらこそすみません」
「あっ、お茶が……!」
スタッフに言われて自分を見てみれば、腿のあたりから膝にかけて大きなシミができている。肌襦袢やら着物の厚さやらで、熱いお茶をかけられてもまったく気づかなかった。
「すぐにタオルを」
「あ、このくらい大丈夫です」
「いいえ、そういうわけにはっ。ちょっとお待ちくださいませ」
あたふたと奥に下がったスタッフと入れ替わりで、彼が現れる。



