沙也加はゆったりとした所作で振り返ると、変わらぬ微笑みを浮かべた。
博人を横取りしたも同然の美華に対して、邪気がないのが不思議でならない。
「お邪魔しました」
丁寧に頭を下げ、優しげな空気を残してドアの向こうに消えた。
美華は、なぜかその場から動きだせない。
あの日、美華が人違いをしなければ、ここにいたのは彼女だった。
たったひとつの出来事で、まったく違う未来になるのだ。それを改めて思い知り、自分の罪深さが身にしみる。
社長の博人には、自分よりも沙也加のように凛として物静かであり、物事に動じないような女性のほうがお似合いなのではないか。
彼女なら、どこに出しても恥ずかしくない。
(私、本当にここにいていいの?)
自信を喪失していると、背後から名前を呼ばれてふと我に返る。
「少し話そうか」
ネクタイを緩めながら「おいで」と手招きをする博人の後に続いて、リビングのソファに隣り合って座る。



