美華は絵本の原作家である。それほど売れてはいないが。
大学で児童文学を学んだ美華は、在学中に応募した絵本の原作コンテストでたまたま優秀賞を受賞し、デビューを飾った。
ありがたくも、それがそこそこ売れたため、コンスタントに仕事をもらえている状況だ。
とはいえ、同じ歳の会社員と同レベルの収入にはほど遠い。実家暮らしでなければ、生活していくのは厳しいだろう。
そういった点でも、美華は肩身の狭い思いをしている。
「芸術的だなんて全然」
イラストを描くほうならまだしも、文章担当だ。
「スイーツに目がないだけなんです」
「和でも洋でも?」
「はい。どちらも大好きです。だから、ついそれしか目に入らなくなっちゃって」
「なるほど。それでさっきのね」
一心不乱に食べる様を思い出したのか、彼は鼻に皺を寄せてクスクスと笑った。
周りの空気が優しく振動するような笑い方にドキッとさせられる。イケメンとは罪である。
美華は、最後にひとつ残ったビー玉のようなゼリーを口に入れた。



