「お父さん、早く車に」
黙ってやり取りを聞いていたお父さんは神妙な面持ちで頷いた。
車に乗り込み、ドアが閉まる。咲は呆然と立ったまま、キツく拳を握っていた。
「では、出発いたします」
平木がミラー越しに私を見て、サイドブレーキを外す。本当にいいのか？と、目がそう言っていた。
「葵！」
「……っ」
早く出発してくれなきゃ涙が出てきちゃう。せっかく咲がぬぐってくれたのに意味ないじゃん。
「元気でな！」
窓越しに視線が合い、ぎこちなく笑う咲。
ああ、もう最後なんだな。
この期に及んで、まだそんなことを思った。
「咲も……元気でね」
涙をこらえて、私たちは笑顔でバイバイした。
未来の約束もなにもなく、今日が最後。
これが最後。
バイバイ、忘れないよ。
たくさんの幸せをありがとう。
