好きであの家に生まれたわけじゃない。普通の家庭に生まれて、普通の暮らしがしたかった。ただそれだけなのに。

「女嫌いで誰にもなびかなかった鳳くんまで、神楽さんを特別扱いしてるもんね。どうやって手懐けたんだか」

「お金でも払って優しくしてもらってるだけっしょ!」

「あははっ! 卑怯すぎるー!」

スカートの上で握り締めた拳がぷるぷる震える。

瀬尾さんたちの心ない言葉が、咲の純粋な優しさを踏みにじっているように聞こえた。

私のことはなにを言われても聞き流せるけど、咲のことをそんな風に言われるのは許せない。

「ちょっとあんたたち! いい加減にしなよっ!」

バンッと机の上に手を着き、弾かれたように椅子から立ち上がる花菜。

教室内は水を打ったように一瞬で静まり返った。

「なんでそんなひどいことが言えるの? 言われた人が傷つかないとでも思ってる?」

「は? なんなの、いきなり」

スッと立ち上がったのは瀬尾さんで、高圧的な態度で花菜を睨んだ。

「多勢でひとりをターゲットにして、あることないこと言うのはどうかと思う。そういうの、よくないよ」