千紘さんのありがた~いお話

 



 指輪はしない。

 しないと決めていた。

 真昼が本当に妻になってくれるその日まで――。

 職員室で千紘が帰り支度をしていると、隣の席の教師が声をかけてきた。

 父親より少し下くらいの歳だが、気さくで話しやすい佐村という教員だ。

「今日、どうですか?」
と酒を一杯ひっかけるような仕草をしてくる。

「ああ、すみません。
 妻が待って居るので」
と言うと、

「愛妻家ですよねー」
と笑われたが。

 妻だろうかな、と千紘は、ふと、思った。

 ……妻かな、あれ。

 妻というより、小動物っぽいが。

 ずっとくるくる滑車を回しているハムスターかリスみたいだ。