千紘さんのありがた~いお話

 千紘から結構な額の入った通帳は預かっているし、少しだが、自分の分もある。

 でも、たった一年の仮の夫婦なのに、千紘の貯金に手をつけるのも嫌だし。

 自分の分は、使い始めるとずるずるいってしまいそうだから、使わないだけだ。

「そうだよ、お母さん。
 真昼はちゃんとやってくれているよ」
と千紘は真昼を立てて言ってくれるが、真昼は、

 いえ、ちゃんとはやってないです……と思っていた。

 昨日もレモン買い忘れましたしね~。

「僕らはもう独立してやってるんだから、余計なことしなくていいよ」
と言う千紘について、

「そうです、お義母様」
と言いながら、真昼は、独立してるというのなら、此処のレストランのお金も乗船代も払わなきゃいけないよな、ほんとは、と思っていた。

 ああでも、と真昼は、運ばれてきたココナッツのふんわりした泡が添えられたクレームブリュレを見ながら、

 このデザートが食べられないくらいなら、今、この瞬間だけは、独立せずに、仙谷家の中に埋没していたい……と思っていた。