ん? と手を止め、千紘がこちらを見た。

「此処の住人の人たち、すごく普通に幸せそうで。

 いってらっしゃいって子どもを送るママたちの声とか。

 ただいまーって、少しホッとしたように言う何処かのご主人の声とか。

 そういうの、聞こえてくるたびに、ちょっと寂しくなってたんです。

 そういう当たり前の幸せがずっと続いていくことが、なんだか私には遠くて」

 真昼……と千紘がこちらを見つめる。

「……ちょっと訊いてみるんだが、見合いの日、俺が普通にプロポーズしてたら、お前、受けてたか?」

「……受けてたかもしれませんね。
 まあ、今だから、そう思うのかもしれませんけど。

 なんだか、新しいクラスがえで、出会った男子に声かけられて、一学期間かけて、好きになったような、そんな感じです」

「俺はクラスメイトか……」
と言った千紘を、でも、と言って、真昼は見つめる。

「ずっと待っててくださってありがとうございます」

「真昼……」