急ではあったが、ちょうどキャンセルが出たというので、いい宿に泊まれることになった。
落ち着いた雰囲気のロビーで千紘が記帳するのを見ながら、仙谷真昼と書かれているのだろう自分の名前を思う。
偽装夫婦のはずだが、外では完全に夫婦だな、と思いながら。
一緒に旅に出ても、一緒に泊まっても、なにも問題のない夫婦なのか、となんだか不思議に思う。
自分たちは、まだまだ、ぎこちない関係なのに。
部屋についている大きな温泉風呂からは広いデッキと目隠しのための木々が見えた。
そして、その木々の向こうには、湖のような広大な池があるようだった。
ちょっと郊外ではあるが、雄大な眺めでいいな、と真昼は思った。
木製の雰囲気ある小さなフロアスタンドが、温泉を温かい光で照らしているのも、いい感じだ。
っていうか、室内には名のあるデザイナーが作ったとかいうインパクトのある椅子が飾られているのだが。
外のデッキにも、それらしき、立派な感じの椅子がある。
ああいうのを見るたびに、雨が降ったらどうするんだろうな、といつもハラハラしてしまうのだが……。



