千紘さんのありがた~いお話

 とりあえず、何処かの町に出たい、と下へ下へと進んでいった。

 自分たちの住む町とは反対側のような気もしたが、それを確かめる(すべ)さえない。

 ああ、こんなとき、星を見て、方角がわかるような人間だったらよかったのに、と海や砂漠を旅する人たちに思いを馳せていると、突然、開けた場所に出た。

 集落かっ、と期待したのだが、車のライトに照らし出されたのは、墓場だった。

 何故、こんな山の中に、墓場っ。

 誰がこんなところまで墓参りに来るんだっ。

 此処に来るまでに、自分が遭難して、墓に入ってしまいそうだが、と思いながら、墓場で向きを変え、坂道を下っていると、下の方に暗い水面が見えてきた。

 月明かりに照らし出されて、美しい。

 ダムだ。

 朝、真昼にスーツケースに入れられて、沈められかけたダムだが。

 沈められてもいい。

 とりあえず、人工的な建造物のあるところに行きたい、と思って、千紘は走った。