千紘さんのありがた~いお話

 逃げながら、
「何故、追ってくるんですかっ」
と言ってみたが、

「何故、逃げるんだっ」
と言い返される。

 いや、言われてみれば、そうなんですけどね……と思いながらも、真昼はベッドと壁際の棚の隙間に隠れてみた。

 そんなところにしゃがんだところで、完全に千紘からは見えているのに、余計、袋のネズミな気はしたのだが。

 あの晩、二人でやったゲームのせいだろうか。

 敵から隠れるために、何度も、千紘に、
「しゃがめ!」
と言われた。

 それが身体にしみついてしまったのか。

 千紘から隠れようとして、つい、しゃがんでしまった。

「何故、追ってくるのかって?」
と言いながら、千紘は、ゆっくりと寝室の床を踏み、近づいてくる。

「……お前が俺の妻だからだよ」

 よく考えたら、何も怖いセリフではなかったのだが、なんとなく怖い。