千紘さんのありがた~いお話

 



 千紘が出かけたあと、真昼は、干そうとしていた洗濯物を手に、ずっとレモンの木の前にしゃがんでいた。

 千紘さんはどういうつもりで、あんなことをなさったのでしょう。
 
 私のような見合いで偽装結婚をしただけの女に。

 見合い……。

 そういえば、と真昼は気づく。

 もしや、千紘さんの釣書や写真は、他の方の手にも渡っていたのでしょうか。

 やり手の保険外交員のおばが、トランプのように千紘の釣書や写真を広げ、女子たちを釣って、ほほほほ、と笑っている幻が頭に浮かんだ。

 回収して歩きたい、と真昼は、ふと思った。

 洗濯物を干しながら、

 やっぱり、回収して歩きたい、とふと思った。

 掃除機をかけながら、ふと思っ……

 気がついたら、高速で家事をこなし、九時過ぎのバスに飛び乗っていた。

 やればできるじゃないか、と自分で思いながら――。