千紘さんのありがた~いお話





 ある日、千紘は放課後、ホームセンターで声をかけられた。

 龍平の学校の、生徒会副会長、鈴木由也(すずき よしや)だ。

「先生、こんにちは」
と言われ、ああ、と返事をしかけたとき、由也が、あれっ? という顔をした。

「そのキーホルダー……」
と呟く。

 千紘の手にある車の鍵についたキーホルダーのことを言っているようだ。

 鍵より遥かに巨大な黒猫のキーホルダーだ。

「いや、これは妻が……」

 妻なのか? あれは、と思いながらも、千紘は言った。

「妻がよくカバンの中で、鍵を見失うから、これをつけると言い出して」

 問題は、一台の車を共有していて、予備の鍵がない、というところなのだが。

 引っ越しのドサクサで、鍵が消えたのだ。

 由也は千紘の顔の辺りと鍵を見て、なにか得心がいったように、ああ、と言う。