千紘さんのありがた~いお話

「そ、そうなんですか」
とよくわからない答えを返し、真昼は逃げようとした。

 そういえば、この偽装夫婦はキスもしたことがないな、と気づく。

 神社での結婚式だったので、そのようなものはなく。

 披露宴のときも、千紘がキスコールを、

「此処はそのような場ではないっ」
一喝(いっかつ)したのだ。

 いや……そのような場ですよ、とブーケを握り締め、真昼は固まったが、そもそも、はやし立てていたのは、類友な、千紘の友人。

 なにも(こた)えてはおらず、みんな、どっと笑って、そのままになった。

 ああ、如意棒が欲しい。

 今、この人の頭をぱくっ、と叩いて逃げ出したい。

 じりっと近づいた千紘を見て、真昼も、じりっと下がる。

「何故逃げる」

「……何故でしょう」

 何故だかわからないが、なんとなく――。

 真昼は、持っていたタオルを両手でつかんで、ヌンチャクのように、かまえてみた。