囁かれた瞬間、全身に鳥肌が立った。


武以外の男とキスをするなんて、考えられないことだった。


あたしは大きく息を吐きだして智樹から身を離す。


「それはダメ。でも、あたしの手作りのお弁当を食べさせてあげる」


本当は武のために作ってきたのだけれど、仕方がない。


智樹への報酬のことなんてちっとも考えていなかった。


そう思って頭をかいたときだった。


不意に智樹の顔が近づいていた。


よける暇もなく、唇を塞がれる。


ねっとりとした唾液の感触と、生ぬるい体温に一瞬にしては吐き気が込み上げて来た。


これは武の唾液じゃない。


これは武の体温じゃない。


汚い……!


智樹の体を突き飛ばそうとしたとき、身が離れた。


あたしは唖然として智樹を睨み付け、大きく深呼吸をした。