家族で経営している泰永茶園は、畑での生産から工場での茶の製造、販売までを一貫して行っている。

私もそれらの作業を日々手伝いながら、時間のあるときは趣味を活かしてお茶会を開いているのだ。

平日の今日も堅苦しさはほどほどに、近所のおばあちゃんたちと煎茶と和菓子を楽しんでいた。

このときばかりは、ちゃんと着物を着つけて背筋を伸ばし、品のある身のこなしでお点前の前に正座する。

綺麗に挨拶の一礼をし、スッと頭を上げたとき、見知らぬ男性が私の父に案内されて中に入ってきた。

百八十センチはありそうな高身長で、高級そうな細身のスーツを着こなしている、三十歳くらいの男性。やや離れたここからでも、整った顔立ちをしていることがわかる。

なんとなくだが、田舎のこの辺りではあまり見かけない、洗練された都会的な雰囲気を感じる。

私たちの茶園では見学や茶摘み体験なども行っているため、こういう人が来てもおかしくはないけれど、少し気になってしまった。

とはいえ、煎茶道に集中すれば、彼のことは頭から消えていく。普段はだらだらしていても、お点前を披露するときだけは凛とした自分になれるのだ。