期間限定『ウソ恋ごっこ』

伊勢谷先輩はそう言って、折原先輩を抱きかかえたまま立ち上がり、ゆっくりとドアへ向かった。


伊勢谷先輩、待って! 行かないで!


そう叫びたかったけれど、言葉が喉の奥で氷のように固まって、どうしても動かない。


だってあたしたちには伊勢谷先輩を止める方法も、その権利すらもない。


だから、伊勢谷先輩と折原先輩がドアから出ていくのを、指をくわえて見送ることしかできなかった。


ふたりの姿が調理室から消えて、のしかかるような重い静寂がまた訪れる。


そして……近藤先輩のひどく暗い声が静寂を破った。


「なんでだよ」


あたしはビクリと震えた。先輩はドアに顔を向けたままだけれど、その問いかけは、あたしに向けられた言葉だとわかったから。


「なんでバラしちまったんだよ。なんのために俺たちは一緒の日々を過ごしたんだよ。こうならないためじゃなかったのか?」


怒りと、悲しみと、後悔が混じった近藤先輩の言葉ひとつひとつが、鋭い刃物のように突き刺さる。


でも、あたしにはなにも答えられなかった。


近藤先輩にウソの恋人ごっこを持ちかけて、伊勢谷先輩を裏切らせて、あげくバラしてふたりの友情をメチャクチャにしたのは、このあたし。


『そんなつもりじゃなかったの』


それが事実だとしても、そんなの、この結果の前になんの意味もないセリフだ。