期間限定『ウソ恋ごっこ』

「……おかしいと思っていたんだ」


伊勢谷先輩の静かな声が、停止した時間を動かした。


「さっきからずっと、ふたりの態度や空気が普通じゃないと感じてた。でも、まさかそんなことがあるわけないって信じてたんだ」


自分を(さげす)むような皮肉な笑いを浮かべて、伊勢谷先輩は吐き捨てる。


「まさか俺の大事なふたりが、俺の気持ちを知りながら陰でコソコソ付き合って、俺を(だま)すわけがないってね」


「違う! 司!」


近藤先輩が身をよじるようにして叫んだ。


「騙してなんかない!」


「楽しかったか? なにも知らずにピエロになってる俺を見て、ふたりで笑ってたのか?」


「そんなんじゃないんだ! 俺はただ……!」


「ただ? ただ、なんだよ?」


なにかを言おうとした近藤先輩は、そのままなにも言えず、苦しそうに黙り込んでしまった。


なにも言えるはずない。だって、伊勢谷先輩の言う通りだから。


あたしたちは自分たちのウソを、『秘密』という柔らかい言葉で包み込み、自分自身と伊勢谷先輩を都合よく騙したんだ。


それをどう言い換えたところで、伊勢谷先輩にとってただの言い訳にしかならないことを、誰よりもあたしたちが知っている。


「なにを言っても、もう遅いよ。もう騙されない。俺は……事実を知ってしまったんだから」