「あたしが伊勢谷先輩の方を好きになったのも納得だ。だってクリーンな白鳥だもん」


「白鳥だからってクリーンとは限らないけどね。アイドルなんて、しょせんは虚像よ。虚像」


「伊勢谷先輩は近藤先輩みたいな意地悪じゃないよ! 女の子にすごく優しいんだから!」


「ハイハイわかったわかった」


真央ちゃんは肩をすくめて、購買部から買ってきたサンドイッチに口をつけた。


あたしもお弁当の残りを急いで食べきってから、両手を合わせる。


「ごちそうさまでした」


「美空、今日も昼食会に行くの?」


「もちろん!」


あたしには、お昼休みの時間に毎日必ず行う習慣がある。


それは愛しの伊勢谷先輩のお姿を遠くから拝謁して、午後からの活力を補充すること!


先輩は毎日、お弁当を中庭で食べるんだ。先輩と一緒にお昼休みを過ごしたい女の子たちも、いっぱい中庭に集まる。


ファンの間では、それを昼食会と呼んでいた。


実際に先輩と一緒にお弁当を食べられる特権階級な女の子は、ほんのひと握り。ほとんどの子は、その周りを囲んで眺めているだけ。


ファンにも階級があって、やっぱり年功序列というか、三年生が一番強い。


もちろん新入生なんて最下層。立場をわきまえずに伊勢谷先輩に近づこうものなら、上位のお姉様たちから睨まれて散々な目にあわされる。


どこの世界でも新人は、謙虚に慎ましく生きなければならないんだ。