「あたしの名前はチビじゃない! 佐伯美空よ!」


足元の小さい石を両手で拾い、近藤先輩に向かって投げつけた。


でも先輩はヒラリと塀を越えて向こう側へ。


あたしの放った渾身の一撃は、壁に当たって跳ね返り、そばにいた無関係なスズメを驚かせただけだった。


「ノーコン。じゃあなー。チビ」


「チビじゃないってば! 戻って来なさいよ卑怯者!」


怒鳴ったところで返事もなし。


軽い笑い声と共に、塀の向こうの足音はどんどん遠ざかって行く。


あたしは悔しくて悔しくて、両手両足をジタバタさせながら「もう! 最低!」と叫ぶしかなかった。


ほ、ほんとに最低。


男としてというより、人として最低!


しかも散々暴言吐いておいて自分だけサッサと帰るとか、ありえない。


……ん? 帰る?


「あ! しまった!」


あたしは慌てて制服のポケットからスマホを取り出し、時間を確認して、その場にガックリしゃがみ込んだ。


バスの発車時刻、もう過ぎてるじゃんー!


自宅方面へのスクールバスは、もうない。市営のバスも今からじゃ一時間待ち。


ああぁ〜。泣き面に蜂って、こういうときに使う言葉なのね。


それもこれもぜんぶ近藤先輩のせいだ!


「最低! 近藤彬って、もう、ほんっと最低ー!」