こうなったら思いきり口やかましく抗議してやろうと身構えると、近藤先輩は庭の外側の塀に近づいて行った。


そして助走をつけて軽く踏み込み、ふわりとジャンプして、塀の上に両手をついて上体を預けた。


まるで体操選手みたいな素早くて軽やかな動作に、つい怒りを忘れて「おお!」と感嘆の声が出てしまう。


すごい。あたしの身長と運動神経じゃ、とてもこうはいかないや。


「おい」


塀を跨ぎながら先輩がこっちを向いた。


「ここで俺と会ったことは誰にも話すな。ここはいい隠れ場所だからバレると困るんだよ。わかったな? チビ」


「チ……!」


せっかく頭から下がりかけていた血が一気に盛り返した。


まるで発火剤をぶっかけられたみたいに、全身がカーッと熱くなる。


チ、チビだとおーー⁉︎


あんた今、一番言ってはならないことを言ったね⁉︎


チビって単語は、あたしにとって最大の禁句なんだよ!


家族や親戚や、あの真央ちゃんですら恐れて封印している言葉なんだから!