期間限定『ウソ恋ごっこ』

「うわ! チビ、すまん!」


「美空ちゃん、大丈夫!?」


「だ、大丈夫、です」


とりあえずそう言って、目をシパシパさせながら笑顔をつくった。


ハンカチを持ってなかったから手で顔を拭いていると、伊勢谷先輩がブレザーのポケットから自分のハンカチをサッと取り出して貸してくれた。


やだもう伊勢谷先輩、女子力高すぎ。


「こら彬! なにも美空ちゃんに水かけることないだろ!?」


珍しく伊勢谷先輩が声を荒げると、さすがに近藤先輩も素直に謝ってきた。


「本当に悪かった。ごめんな」


神妙な態度で謝罪されたので、あたしも聖母のように微笑みながら納得する。


「いいんです。まさか伊勢谷先輩が水を避けるとは思っていなかったんですよね?」


「いや、ちゃんと避けると思ってた。こいつ運動神経いいから」


「はあ!?」


聖母の微笑みが、一気に鬼の形相に変化した。


それってあたしが運動神経悪いってこと!? ていうか避けると思っていたのなら、なんで水をかけたのさ!? 


「後ろにあたしがいるの見えてましたよね!?」


「小さくて見えなかった」


「はあぁぁー!?」


よくもまたそうやって最大の禁句を! しかも真面目な顔して言うなー!