だが、俺にだって譲れないものがある。
そっと母さんの手に左手を重ねる。
「……ごめん、母さん。大人しく死ぬときを待つのは嫌なんだ」
母さんは声を殺して涙を流す。
俺は、もうすぐ死ぬ。
小学六年のとき、病気が見つかった。
そしてすぐ、二十歳まで生きられるか怪しいと言われた。
「残された時間がわずかだからこそ、今できること、やりたいことをやりたいんだ。後悔のない人生にしたい」
黙って涙を零す母さんを見て、自分が悪いことをしているような気分になる。
それでも、ここを譲ってしまうと、俺は一生後悔する。
かと言って、母さんに反抗するつもりではない。
「死にたいわけじゃないから、無茶はしないよ。限界が来たら、治療に専念する。……もう少し、だから」
涙を拭うために俺から手を離したはずなのに、その手は拳になり、俺の頭に置かれた。
「もう少しなんて言わないで。……私も、玲生とやりたいことがあるの。付き合ってくれる?」
涙目で笑う母さんを見て、胸が締め付けられる。
「当たり前だろ」
「本当?あのね、私、玲生と旅行に行きたいなって思ってて」
母さんはスマホの画面を見せてくる。
そっと母さんの手に左手を重ねる。
「……ごめん、母さん。大人しく死ぬときを待つのは嫌なんだ」
母さんは声を殺して涙を流す。
俺は、もうすぐ死ぬ。
小学六年のとき、病気が見つかった。
そしてすぐ、二十歳まで生きられるか怪しいと言われた。
「残された時間がわずかだからこそ、今できること、やりたいことをやりたいんだ。後悔のない人生にしたい」
黙って涙を零す母さんを見て、自分が悪いことをしているような気分になる。
それでも、ここを譲ってしまうと、俺は一生後悔する。
かと言って、母さんに反抗するつもりではない。
「死にたいわけじゃないから、無茶はしないよ。限界が来たら、治療に専念する。……もう少し、だから」
涙を拭うために俺から手を離したはずなのに、その手は拳になり、俺の頭に置かれた。
「もう少しなんて言わないで。……私も、玲生とやりたいことがあるの。付き合ってくれる?」
涙目で笑う母さんを見て、胸が締め付けられる。
「当たり前だろ」
「本当?あのね、私、玲生と旅行に行きたいなって思ってて」
母さんはスマホの画面を見せてくる。