玲生さんは返す言葉もないと言わんばかりに口を閉じる。


「なにより、私が今すぐ円香ちゃんと一緒に住みたいの。じゃあね、玲生。また明日」


希実さんは玲生さんの文句を待たずに、私を引っ張った。


「また明日、来ますね」


引きずられながら挨拶をすると、玲生さんは手を振って返してくれた。


病院を出ると、希実さんはスピードを緩めた。
私から手を離し、隣を歩いている。


「円香ちゃんには、本当に感謝しかないなあ」


希実さんは空を見上げながら呟いた。


「私はなにもしていませんよ?」


私の顔を見ると、微笑んだ。


「円香ちゃんがいてくれたから、玲生は生きることを決めたし、玲生が楽しそうにしているから、私も楽しいんだ。円香ちゃんがいなかったら、きっと今の状況にはなっていない」


大袈裟だと思った。
希実さんはいいように捉えてくれているが、私は自分のわがままを押し通しただけだ。


それなのにお礼を言われると、不思議な気分になる。


「そうだ、円香ちゃんはお迎えとか門限ってあるの?」


本当に今から家に行くのか、なんて思いながら素直に答える。


「迎えはないですが、二十二時までに帰ってきなさいと言われています」
「了解。少し買い物してから、うちに行こうか」