君への愛は嘘で紡ぐ

こういうとき、笠木さんが一人部屋なのを恨む。
私の心臓の音しか聞こえてこない。


「この前練習して言えたんだから、あとは慣れるだけだよ」


笠木さんは笑いかけているが、それが悪魔の微笑みに見えてしまう。


「……呼んで、と言われてすぐには……」


呼びたくないわけではない。
ただ、どうしても恥ずかしいという気持ちが勝ってしまうのだ。


笠木さんはたしかに、と呟く。


「でも、結構待ったと思うんだけど?」


返す言葉もない。


「……頑張り、ます」
「うん、頑張って」


笠木さん、いや、玲生さんは終始笑顔だった。


私ばかり恥ずかしい思いをしているのは納得がいかないが、玲生さんが幸せそうであるなら、こんなに嬉しいことはないと思った。





数日後、玲生さんの手術日が二週間後に決定した。
お金はややこしくなるからと、全額お父様が出すことになった。


お父様には一生逆らえないと玲生さんは苦笑していた。


そして私は、奈子さんの家を訪ね、料理を習っていた。


理由は簡単だ。
玲生さんが、私の手料理を食べてみたいと言ったからだ。


しかし、私は生まれて一度も包丁を持ったことがない。
食事の時間になると、食卓に料理が並んでいる生活を続けてきたことを、ここに来て悔やむ。