「笠木玲生の母です」


お互いに挨拶をしても、空気は変わらない。


私と笠木さんは、二人を交互に見て様子を伺う。


「それで、どうしてここに?」
「彼の手術費についての話をしに来ました」


お父様は即答した。
希実さんは目を見開いて笠木さんを見るが、笠木さんはその視線から逃げている。


「玲生、どういうこと?手術するの?」


笠木さんは唇を噛んで答えようとしない。


だけど、笠木さんが答えないことよりも気になることがあった。


「笠木さん……言ってなかったんですか……?」


大切な話のはずで、希実さんに言わずに手術をすることはできないはずだ。


それなのに、笠木さんはそれを言っていなかったらしい。


「……どう切り出せばいいのかわからなかったんだよ」


笠木さんを責めるような空気が流れる。


「玲生、ちゃんと説明して」


希実さんは無表情で言った。
笠木さんに向けられた視線はあまりに冷たく、母親の厳しさのようなものを感じる。


「円香と過ごしたことで、もっと生きたいって思った。だから、手術しようって決めたんだ」


希実さんは目に涙を浮かべている。
今にも笠木さんに抱きつきそうだ。


「でも、金がないだろ?」