張り詰めた空気で、息を呑む。


「円香……自分が何を言っているのか、わかっているのか?」


翌朝、お父様に笠木さんと結婚することになったことを伝えると、背筋が凍るほど睨まれた。


お父様は朝食の途中だったが、箸を置いた。
まだ席に着いていない私は、一歩下がりそうになるのを、必死にその場に踏みとどまる。


後ろに下がれば、逃げたことと同じだ。
お父様を説得できなければ、笠木さんは手術ができない。


逃げたくない。


「……わかっています。ですが、笠木さんが手術を受けるには、こうするしかなかったのです」


お父様の顔はより険しくなる。


「それと……私が、笠木さんと結婚したいと思ったので……」


本心を言ったことで緊張よりも恥ずかしさが上回り、顔が熱くなった。


お父様のため息が聞こえる。
一気に緊張が戻ってきた。


「その気持ちは知っている。ただ、わざわざ結婚しなくとも、手術費は出す。それなのに、どうして結婚するなんて言い出したんだ」


そういえば、鈴原さんとの結婚を断るとき、そのようなことを言った気がする。


誰かを一途に思うことは許してくれても、実際に結婚となると話は別らしい。
お父様が怒っているように見えて仕方ない。