ベッドの上に置いていた右手に、笠木さんが手を重ねた。
恐る恐る笠木さんを見ると、また優しい目に戻っていた。


不覚にもときめいてしまった。


「俺と結婚したいって思うくらい、俺のことが好きなんだ?」
「え……」


視線が泳ぐ。


そういう方向性のことを考えていなかったから、どう答えればいいのかわからない。


図星といえば図星だが、素直に言うのは照れくさくてできなかった。


「そう思っていなきゃ、そんな結論は出てこないだろ」


笠木さんはそう言いながら、体を起こした。
だけど、目が合わない。


笠木さんは儚げな目をして窓の外を見ている。


「俺はさ……生きる気なんてなかったから、お嬢様を突き放したし、自分の気持ちを押し殺した」


ずっと私をからかうように円香さんと呼んでいたのに、お嬢様と呼んだ。


それが昔の話だということを言っているような気がした。


笠木さんは視線を落とした。
膝の上に置いた手を組み、それを見つめている。


「一生会えないと思っていた人に再会できたのは奇跡に近いし、今隣にいて話しているのは、夢なんじゃないかって思う瞬間がある」
「……笠木さん……?」


笠木さんが泣きそうな目をしているから、つい声をかけた。