君への愛は嘘で紡ぐ

「どういたしまして」


瑞希さんが笑ってくれたことで、感謝の気持ちがきちんと伝わったのだとわかる。


瑞希さんはこれからお見舞いだということで、私たちはその場で解散した。
一人になった私は、帰路についた。





笠木さんのお見舞いに行くようになって、三日が過ぎた。


笠木さんと話すことは本当に他愛もないことで、それなのに毎回幸せな気持ちになれた。


「そういえば、いつの間にか笠木さんに戻ってるよな」


とある話題が一区切りつくと、笠木さんは思い出したように言った。


「俺はちゃんと円香さんって呼ぶようにしてるのに」


笠木さんは意地悪な笑みを向けてくる。


たしかに、あの一回しか呼んでいない。
だが、それには理由がある。


ずっと笠木さんと呼んでいたものを、今さら簡単に変えることはできない。


そしてなにより恥ずかしくて、どうしても逃げてしまう。


「円香さんが俺の名前呼んでくれたら、嬉しいのになあ」


笠木さんが私の名前にさんを付けるのは、間違いなくわざとで、からかっているようにしか思えない。


名前で呼ばれるのは嬉しいけど、違和感しかない。


「なんて、無理矢理呼ばせても気分よくないからいいんだけどさ」