君への愛は嘘で紡ぐ

笠木さんは私に名前を呼んでもらえただけでなく、呼ぶことができて満足したのか、何かを達成したような顔をしている。


「終わった?」


後ろから声がして、汐里先生がいたことを思い出した。
私は勢いよく振り向いた。


私たちを呆れたような、むしろ照れているような目で見ている。


恥ずかしさは限界を迎え、この場から逃げ出すという選択肢を選んだ。


私はその場に立ち上がる。


「また明日来ますね、笠木さん」


そしてそのまま走って廊下に出た。
壁に縋るように座り込む。


「心臓もたない……」


自分を落ち着かせるために、深呼吸をする。
少しずつ緊張から解放されていく。


毎回こうなるのかと思うと、笠木さんに会いに来るのが少し怖い。


あのような幸せな時間が積み重なると、今以上に笠木さんの存在が大きくなっていくだろう。
そうなったとき、私は笠木さんがいない世界で生きていけるだろうか。


そう考えると、笠木さんに会いたい気持ちは強いのに、ここに来ることに抵抗を感じる。


「えん?こんなところに座り込んで、体調でも悪いの?」


偶然通りかかったのか、瑞希さんは少し屈み、心配そうに私を見ていた。


「いえ、大丈夫です」