君への愛は嘘で紡ぐ

「気にすんなって。あ、でも俺がお嬢様を名前で呼ぶのは大丈夫?てか、呼びたい」


なぜかこのタイミングで、笠木さんが病気であることを思い出した。


ここで恥ずかしいから嫌だとわがままを言ってしまえば、笠木さんは後悔を残してしまうのではないだろうか。


「……いいですよ。玲生、さん……」


語尾が小さくなった。


笠木さんは私の手首を掴むと、ベッドに誘導された。
私は笠木さんの隣に座る。


視線の高さが合い、笠木さんは真っ直ぐ私を見つめている。
すると、笠木さんの温もりに包まれた。


「あの……?」
「ヤバい……名前呼ばれただけなのに、めちゃくちゃ嬉しい」


その言葉と共に、笠木さんの力が少し強まる。


耳元で聞こえる笠木さんの声は、さらに私を緊張の沼に落とす。


笠木さんはすぐに離れてしまった。
あれだけ緊張したくせに、手を握っていたときと同様に離れ難いと思ったらしい。


「さん付けってのも案外悪くないな。俺もそうしよう」


一人で納得した笠木さんはもう一度私に近付くと、耳元で囁いた。


「好きだよ、円香さん」


シンプルな言葉だからか、体温は上がり、頭は真っ白になった。


言葉は出てこなくて、反応をすることも出来なかった。