君への愛は嘘で紡ぐ

笠木さんと視線が合うと、笠木さんは頬を赤らめて微笑んだ。


笠木さんが手を離したことで、やっと息ができたような気がした。


「お嬢様が呼ばれたくないなら、俺の名前呼ぶ練習するか」


笠木さんは名案だと言わんばかりに楽しそうに言った。


「俺の言った後について言って。わかった?」


頷くけど、上手く言えるか自信はなかった。


「れ」


いきなり名前を言わせられると思っていたから、少し戸惑った。


笠木さんが発した通りの一音を真似て言う。


「……れ」


私が続けて言ったことで、笠木さんは満足そうに笑った。


「お」
「……お」
「よし、続けて言ってみようか」


笠木さんの笑顔が悪魔の笑顔に見えてしまう。


たった二音だが、それが口から出てこない。


「お嬢様?」


目が泳ぎ、足元を見つめる。


言いたいという気持ちよりも、言わなければならないと思い始めた。


そのせいで焦りのようなものが出てくる。


「無理しなくていいからな?」


切なそうな目が、私を逃がしてくれない。


「呼びたくなったときに呼んでくれたらいいよ。無理させてごめんな」


幼い子を諭すような柔らかい言い方で、申し訳なさが込み上げてきた。


「ごめんなさい……」