君への愛は嘘で紡ぐ

可愛いと言われたから許すというのは、単純すぎる。


「……笠木さんこそ、私の名前を呼んでくれないじゃないですか」


笠木さんは笑うと、優しく私の両手を取った。


緊張から息が止まりそうになる。


笠木さんの表情は柔らかくて、それだけで心臓がうるさい。


ゆっくりと笠木さんの唇が動く。


「ま」
「……ってください!」


笠木さんの声が音になった瞬間、私は叫ぶようにしてそれを遮った。


緊張に耐えられなくなって、私は笠木さんの手から逃げる。
笠木さんは驚いている。


「あの……また、今度でお願いします……」
「なんで?」


絶対にわかって聞いている。


そう思うくらい、笠木さんは悪い顔をしている。


「いいじゃん、名前呼ぶくらい。な?ま、ど」
「だから、待ってくださいと……!」


笠木さんの意地悪さはどんとん増していく。
私は懸命にそれを阻止する。


そんな私を、笠木さんはずっと笑っている。


それが面白くなくて、頬を膨らませた。


「そんな、拗ねるなよ」


笠木さんの手は伸びると、私の頬に触れる。


触れ合いたいと思うはずなのに、恥ずかしさが上回って逃げたくなる。


「好きな人に名前で呼ばれたいし、好きな人の名前を呼びたいだけだから」