その笑顔が何を表しているのか、わからなかった。


「そうだ、小野寺さんは玲生くんに会いに来たんだよね?呼んでくるよ」


私が聞くより先に、汐里先生は笠木さんを呼びに行ってしまった。


汐里先生に声をかけられた笠木さんが、私に気付く。
私は軽く頭を下げる。


笠木さんは汐里先生に支えてもらいながら、私の近くにある椅子に座った。
先生は気を使ってくれたのか、また病室で待っていると二人きりにしてくれた。


「どうした、お嬢様。ここに来たら王子に怒られるんじゃねーの?」


笠木さんは優しい表情で言いながら、自分の隣を叩いた。
私は笠木さんが叩いた場所に腰を下ろす。


「婚約はお断りしてきました」


笠木さんは目を見開いた。
そして、私を睨んだ。


「逃げたのか?」
「それは違います!」


私の声が大きすぎて、休憩所にいるほとんどの視線を集めてしまった。
私は恥ずかしくなり、顔を伏せる。


すると、笠木さんは私の頬に触れた。
何事かと思い、横を向く。


「……そっか。変なこと言ってごめんな」


固い動きで首を左右に振る。
笠木さんの手は自然と離れた。


「きちんと話してきました。お父様も認めてくれました」