君への愛は嘘で紡ぐ

「私はシュークリームとサイダー」
「チョコレートケーキと、紅茶をお願いします」
「かしこまりました」


笠木さん注文票をエプロンのポケットに入れ、メニュー表を持って去った。


私はお手洗いに立つふりをし、笠木さんを追いかける。


「笠木さん」


ちょうど注文を伝えているところだったため、深呼吸をして声をかけた。
手が空いているのか、私の話を待ってくれている。


「私も、アルバイトをしてみたいです」


笠木さんは面倒そうに顔を顰めた。


「お嬢様、聞いてなかったのか?アルバイトはダメだ」


悪いことをしている人に言われても、説得力がない。


「一度髪を染めたのです。もう、怖いものなどありません」


笠木さんは私の髪に触れる。
一気に緊張に襲われる。


「だとしても、また怒られるぞ」


お父様が怒ると、何をするかわからない。
それは数日前にわかったことだ。


恐怖で手が震える。


「お嬢様?」


笠木さんは心配そうに私の顔を覗く。


「……大丈夫です。わがままばかり言ってしまい、申しわけありません。お仕事に戻られてください」


自分でもわかるほど、上手く笑えなかった。
深く聞かれる前に席に戻ろうと、笠木さんの手から髪がすり抜ける。