君への愛は嘘で紡ぐ

楽しかった空気が緊張に切り替わっていくのがわかる。


「辞めなきゃいけねーのかよ……給料いいのに」


それは独り言だったけど、吐き捨て方が少し怖く、私も由実さんと同じように恐怖を感じた。


「玲生、出入り口で何してるの。はやくお客様案内しなさい」


すると、緊迫した空気を壊すように、店内から女性の声がした。


「……三名様ですね。お好きな席へどうぞ」


注意されてスイッチが切り替わった笠木さんは、全く知らない人に見えた。


やっとお店の中に入ると、空いている席に座った。


「人気ってわりには空いてない?」


瑞希さんは疑いの目を由実さんに向ける。


「人気出始めたばかりだからじゃないかな?」


曖昧な説明で、瑞希さんは全く納得していない。


「ここに来てくれるお客様はだいたい玲生めあてなんですよ」


その声は、出入り口で笠木さんを呼んだ声と同じだった。
お水とメニュー表を持ってきてくれた。


「笠木?どうしてですか?」


瑞希さんがメニュー表を受け取りながら尋ねた。


「玲生の知り合いがよく来てくれて、常連さんが増えたんですよ」


店員さんはそれだけを言うと、仕事に戻った。


私たちは静かに顔を見合わせる。


「学校で笠木に会いに来る人、いるっけ」