愛しの Silver Fox 様

高校も楓は直哉と同じだった。

といってもこんな片田舎にある通学できる学校が、選べるほどたくさんあるわけでもなく、一番近い自転車で通学できる学校に私たちは通っている。

直哉は無口で無愛想ではあるが、切れ長な端整な顔立ちの彼は、密かに女の子たちに人気がある。

私たちが許嫁なのは誰も知らない。
学校で仲良く言葉を交わすこともないし、たまに用事があってお互いの家を訪れた時に、二言三言交わすだけだ。

学校で直哉と言葉を交わすことはとても目立ってしまう。

楓は自転車置き場で登校してくる直哉を待ち伏せて、直哉にこそりと話しかけた。

「大事な話があるの。
学校終わったらうちの裏山にある祠の前に来てほしいの。
都合つくかな…」

今にも泣きそうな不安に揺れる楓の瞳に、直哉は険しい顔をした。

「…放課後で大丈夫なのか?
今すぐじゃなくて」

「うん、大丈夫。
誰もいないところでゆっくり話したいから」

「わかった。裏山の祠だな」

直哉はきゅっと口を引き結び、険しい顔のまま楓の横をすり抜けて校舎へ向かった。