佐伯主任が広報部と経理部に行って用事を済ませてきた後、有無を言わさず外に連れ出された。

車を郊外まで走らせ、やって来たのは見晴らしのいいカフェ。
休憩時間だから先に食事しに行こうと言った主任に

「私、お財布持ってきてません!」

と言うと同時に手渡されたのは、私の通勤バッグ。

「財布は必要ないけど、化粧直しは必要だろ。メイクが崩れたら最悪だもんな?」

なんて!
ムッときたけど、なんと用意のいいことかと感心してしまった。
最初から私を連れ出すつもりで迎えに来てくれたんでしょ?
私が父と会っていることまで分かってたような感じだし。

しかし、私のバッグは机の一番下の引き出しの中なのに、よく分かったな……って、まさか?
勝手に机の中を探し回ったってこと?

「主任、私のバッグの在処がよく分かりましたね」

どんな顔して引き出しを開けたんだろう。
見たかったかも。

「いつも朝から引き出しに入れているだろ。他の引き出しは触ってないから。バッグを出しただけだ」

知ってたんだ、バッグの在処。
そんな他人のことなんて関心なさそうなのに、私が入れるのをたまたま見てたってことかな。
それとも毎日監視されてるとか……?

「バッグを出したってことは、見ちゃいました?」

「ああ、悪い。見えてしまった。時間なくて焦ってたから、ほんの数秒だったけど」

そうか、見られてしまったのか。
大事に持っている、家族写真。
いつも引き出しにこっそり入れておいて、バッグの出し入れの時に見て元気づけられているのだ。

新しく家族写真を撮る度に入れ替えているんだけど、今入れているのは新と信の高校入学祝いで撮った写真。
真新しい高校の制服を着た双子の弟と、小学生の妹と、母と、私。
この写真を撮ったのは入学式前の春休み中だったな。

あ、そうか……。
私の誕生日の翌日の土曜日だったんだ。
あの忘れられない歓送迎会の直後だった……。