そして主任が黙ってしまった事に遅れて気付いて、伏せていた顔を上げてみると、そこには………。

多分、私以上に赤くなった顔の主任が、ポカンとして私を見つめていた。

ちょ、自分でやっておいて、しかも『してやったり』とでも言いたげだったくせに。

「主任、大丈夫ですか?」

ハッと我に返った主任が、コホンと咳払いして言った。

「蘭さん、明日の予定は?」

明日は土曜日だから仕事は休み。

「明日は、なつみん……経理部の有田さんと会う約束をしてます」

「先約アリか。そいつは残念だな」

本当に?
大して残念そうでもないように聞こえるんだけど。

「あ、主任!私、日曜日だったら空いてますが?」

つい言ってしまったけど、私から誘ってるよねこれって。
主任をデートに誘うなんて、大胆なことしちゃったかな?
でも付き合ってるんだから、いいよね………?

「日曜日はちょっと法事の予定が入ってる。ごめんな」

「あ、いいえ。それじゃ、帰りますね」

本当はもっと話していたかったけど、ここでずっと立ち話している訳にもいかない。

「明日は有田さんとデート楽しんで。じゃ、お疲れ」

主任は明日、どうやって過ごすんだろう。
2人の予定がかみ合わなかったことが、ちょっと、いや、かなり残念だと感じている私。
『楽しんできて』って言ってもらったんだもの、明日はなつみんと楽しい時間を過ごそう。

「ありがとうございます。お疲れさまでした。……おやすみなさい」

「おやすみ」

ここでどちらともなく絡ませていた指をほどき、手を離した。
繋いだ手は離れてしまっても、想いだけは繋がっていたい。

私だけなのかな。
それとも主任も同じように想ってくれている?

そんなことを思って、エントランスに入る直前で振り返ってみると、主任がまだ私を見送ってくれていた。
さっきまでの主任の温もりが残る右手を軽く振ってみると、左手を同じように振り返してくれた主任。
明日と明後日は会えないんだ……。
早く月曜日にならないかな、なんて。
いつもなら憂鬱になりがちな月曜日を待ちわびているなんて、そんな自分に驚きながら、自宅へと向かった。