10月5日、12時10分



次に連れて来られたのは、ヤニ臭い喫煙所だった。




「やべー、心は鋼ってやつ?」

「はははっ、そうかもな」



耳障りな笑い声に、思わず眉間にシワが寄ってしまう。



自然とそこを離れようとすれば、真横にいる少女にガッチリと耳たぶを掴まれ、引き戻されてしまった。


「いててっ!」

「ほら、またそんな死んだ魚みたいな目してる。彼らの会話をよく聞いてみなよ」


死んだ魚みたいって言うか、俺、実際死んでるんだけどな。

っとひとり心の中で突っ込んでいると、喫煙所の近くを旧茶室に向かう自分が通りかかる。



当の本人が隣を歩いているとは知らずに、後輩たちはペラペラとお喋りを続けていた。


「佐原先輩ってさー、マジよく辞めねぇよな。課長にあんだけキツく叱られてんのに」

「俺だったら無理だわ〜。後輩の前であんな風に言われるとか精神的に耐えらんねぇ。あの人の心臓、本当に鉄で出来てんじゃねぇの? はははっ」



ここで俺は胸くそ悪くなって、早足に通り過ぎたんだっけ。


煙草の煙を深く肺に取り込み、二酸化酸素と共に吐き出したあと、後輩のひとりが口を開く。



「……でもさ、佐原先輩くらいだよな。俺たちの仕事手伝ってくれるの」