挙句、タクシーを降りてからも、ふらつく私を見兼ねたその人は、アパートの部屋の前まで私を背負ってくれて


広い背中で揺られながら感じる、その人の温かさと優しさがあの日の私にはどうしようもなく心地よかったのを覚えている。


そして、お酒の力も相まって、私はそのままその人の背中で眠ってしまったらしい。


次の日、朝起きた時にはもちろんその人の姿はなくて。


代わりに、ローテーブルの上に、勝手に私のバッグから鍵を出して部屋に入ってしまったことへの謝罪がメモにしたためてあった。


"送り狼には気をつけろ"なんて、大学のサークルで散々先輩達に言われて来ただけに、世の中にはこんなにも良い人がいるのかと感心してしまった。


もう、どこかですれ違っていたって、きっと私は気づけないレベルの、そりゃもうあの日の自分のアホさ加減を呪いたくなるくらい、その人に繋がる手がかりはなくて。


名前とか、せめて連絡先くらい聞けば良かったのに。泥酔した挙句、人の背中で寝落ちするなんて最悪すぎる。



お礼のひとつも言えないまま3年が経った今も、あの人のことを忘れられないでいる。