「ねぇ、フルーナ。
君、明日もここに来る?」

ハールに聞かれて、私は即座に頷いた。

「雨さえ降らなければね。」

「じゃあ、また明日、ここで会おう。
君にまた会いたい。」

私の手を握ったハールに、まっすぐに見つめられて、私は慌てて目を逸らした。

どうしよう。
ドキドキする。

だけど…

私に会いたいって、そんなの本気なわけない。
こういう人は、きっと誰にでも言うこと。
真に受けちゃいけない。

それに、ハールは私に言ったんじゃない。
フルーナ王女に言ってるの。

だから、私はハールを好きになってはいけない。

「私、もう、戻らなくては… 」

私は、慌ててバイオリンを片付ける。

すぐにもこの場を逃げ出したいのに、そうはいかない。

肩当てを外し、松脂を拭き取り、弓を緩め…

私がそうしている間、ハールは黙ってその作業を見ていた。

「随分、手慣れてるんだね。
バイオリンは子供の頃からやってるの?」

ハールに尋ねられて困った。

これはどう答えればいい?

「ええ。」

私は短くそれだけ答えた。

この手際を見て、先程の音色を聴いて、昨日、今日始めたなんて言ったら、それこそ嘘くさい気がしたから。

「きっといい先生が付いてたんだろうね。
誰に習ったの?」

「おと… 先のコンツェルトマイスターだった
ミュラー男爵に。」

危うく「お父さま」と言いかけて、慌てて言い直した。

「へぇ。
宮廷楽師から直接教わったなら、そんなに
上手いのも頷けるな。」