私がなんとか集中してその曲を終えると、アルフは取り囲んだ女性たちをかき分けて、私の目の前に立った。

な、何!?

「踊っていただけませんか?」

アルフは、私に手を差し出した。

「え、いえ、あの… 」

だって、今日の私は、演奏するために来てるから、ドレスだって黒だし、何より、アルフの後ろの女性たちの刺すような視線が怖い。

けれど、それを見た指揮者は、

「行っておいで。
今日は、コンツェルトマイステリン
じゃないから、君ひとり抜けても大丈夫。
リヒャルト自慢の娘が、どれほど上手に
踊るのか見てみたい。」

と言って微笑み、私の前に座るコンツェルトマイスターは、振り返って私の譜面を没収してしまった。

困った私がアルフを見上げると、アルフはもう一度言った。

「 クリスティアーネ嬢、
私と踊っていただけませんか?」

ふぅ………

私はため息をひとつ吐くと、立ち上がってバイオリンと弓を椅子の上に置いた。

「ワルツは踊るより弾く方が得意なんです。
それでもよろしくて?」

私がそう言うと、

「もちろん。」

とアルフは満面の笑みを見せた。