翌日は、王女殿下がバイオリンを聴きたいとおっしゃってくださったので、バイオリンを持って王女殿下の部屋を訪れた。

王女殿下は、バイオリンをしばらく聴いた後、

「ありがとう。
良かったら、お話しましょ?」

とおっしゃって、とても気さくに話しかけてくださった。

「ねぇ、アルフとはどうやって
知り合ったの?」

王女殿下の興味は、もっぱら私とアルフの恋の話で、出会いから逃避行まで話は尽きなかった。

王女殿下は、それは楽しそうに話を聞いてくださって、最後には、

「私もクラウスと逃げようかしら。」

と微笑んでおっしゃった。

「ああ、でも、ダメね。
アルフが攫ったのは、男爵の娘だから、
無罪放免だったけど、クラウスが私と
逃げたら、本当に王女誘拐にされかねない
ものね。」

そう言って微笑む王女殿下は、どこか少しお寂しそうにも見えた。

人間、地位やお金があるだけでは、幸せにはなれないものなのね。



それから、しばらくして、父リヒャルト・フォン・ミュラーは子爵の位と領土を授けられた。

没後1年経ってからの出来事に、父を知る人は驚きはしたが、政局に影響があるわけではないため、ほとんど人の口の端に登ることはなかった。