東華が滝壺へ姿を消しはや10数年。



妃瀬も何も知らないの一点張りで
東華の行方は分からないまま月日が流れた。



「重役、お時間です」



「そうか。」



黒のスーツに身を包み後ろを振り向く。



和風作りの家の障子の所には
スーツを着た男が頭を下げて待っている。



「予定を」



長い廊下を歩きながら男に話しかける。



「はい


本日は午前中に新しい現場の視察、
昼にはそこの責任者の説明を聞きます。」



「それ俺じゃなくてもいいだろ。」



「それは、どうでしょうか?」



「まぁ、いい、次」



「はい、予定では3時から
妃瀬会成瀬組若頭との会食です。」



その予定に口端が上がる。



「妃瀬なら、遅れれねーな」



優秀な部下はそれだけで察して苦笑する。



「昼の説明は我々が聞いておきます。」



「そりゃどーも」



門をくぐり抜けて目の前に停めてある
車に乗り込む。



七尾会如月組所属重役になって早3年。



忙しい日々と会食の日々にはもう慣れた。



その会食の中で唯一楽しみにしているのが
妃瀬会成瀬組若頭との会食。



元気にしてっかなー、あいつ。